2016年の年末に、富士工業から新たに発表されたガイドリングが、SiC-Sリングです。
Kシリーズのガイドに採用されるガイドは基本的にSiC-Sに置き換わっていっていることをご存知でしたか?(ちなみに我々が普段SiCと呼ぶ従来のモデルはSiC-J)
SiCリングと言えば、過去来最高級ガイドリングとして認知されてきましたが、ここ数年、ハイエンドロッドに採用されているガイドリングと言えば、トルザイトリングですよね。
ここにきて、新登場するのがSiCの類?なぜ?トルザイトが発展・普及していく流れなんじゃないの?なんて思いませんか?
トルザイトリングには賛否両論ありますが、それが関係しているのか?
今回は、この気になる点を掘り下げてみます。
アイキャッチ画像出典:富士工業
SiC-Sリングの概要
まずは、富士工業のホームページに記載の情報からご紹介します。
“SiC-S”はFujiのスタンダードに! Kシリーズのガイドは“SiC-S”になります。
※一部“SiC-J”を使用するガイドもあります。
バスロッドでの比較で9%軽量化!
出典:富士工業
従来のSiC-Jと比べて、パット見で分かるほど内径に差がありますよね!
軽量化やモーメント(慣性→振り抜きの良さに関与)の小ささに貢献します!といった宣伝文になってます。
うん、それは分かります。
しかしながら、なぜトルザイトじゃないんだ?とも思いませんか?
トルザイトリングもSiCリングより薄くて軽い!を売りにしてたんじゃ?
トルザイトを量産してコスト下げたらいいんじゃ?
ここから自分なりに色々掘り下げていこうと思います。
トルザイトリングを知る
まずはトルザイトリングを知らなければ先に進めません。
トルザイトリングを考察していきたいと思います。
メーカーの説くメリット
まずはメーカー公式の説明をご紹介します。
トルザイトリングにもR型とF型の2つが存在します。
少し長いのですが、流し読みでもいいので雰囲気をつかんでください。
[リングサイズ]
FUJIガイドリング史上最高のライン保護性能に到達!
「トルザイト-フランジ」リングチョークガイドとトップガイドを過酷に出入りするラインのために
ガイドシステム中、ラインが最も激しく出入りするチョークガイドとトップガイド。 その2点を通るラインに一層の過酷さを強いる使用条件のために、ツバを付けました。 それがトルザイトF型「TORZITE-F」です。 あらゆるライン角度に対応する大きな「R」を持つツバ。それが新開発セラミック製のTORZITEと融合した結果、Fujiガイドリング史上最高のライン保護性能に到達しました。 この「F型」と、2014年に先行発表された「R型」との組み合わせにより、TORZITEスペックは極軽量のまま、これまで以上のタフユースでも存分な使用が可能となり、フィネスからソルトウォーターまで幅広いジャンルをカバーできるようになりました。
① 「F(フランジ)」ならではのベストなライン保護
トップガイドとチョークガイドのために、ラインのあらゆる放出角度、集約角度にやさしく対応する “ビッグR”。② 「F(フランジ)」なのに、SiCより軽い
肉厚に上げず、軽量を保ちながら実現した大きなラウンド。だからトップガイドにも対応。③ 「F(フランジ)」でも、TORZITE-Rと同じ内径
ダブルの軽量化が可能
・ティップガイドと同サイズでもスムーズにつながる。だからティップガイド比1サイズアップが不要。
・さらに内径の広さにより、SiCからのダウンサイジングも可能。
出典:富士工業
もっと詳しくトルザイトリングを知りたい方は、「富士工業ホームページ トルザイトリングのページ」をお読みください。
さて、富士工業が説くメリットを長々と転載しましたが、要は以下の3点が強く主張されているようです。
①SiC−Jより内径が広い
②軽い
③ラインに優しい(面で受ける)
なるほど、理解できることばかりで、素晴らしいガイドリングのように感じますよね。
しかし、実はデメリットもあることが分かってきているんです。
トルザイトリングのデメリット
ほぼ間違いなくデメリットであろうと考えられているのは、
糸鳴り音
です。
SiCリングよりも、ガイド内側のラインとの接触面積が広いことで摩擦が発生してしまい、負荷をかけた状態でリールを巻くと、ストレスに感じるレベルの糸鳴り音がするという一般アングラーからの報告が多数上がっています。
富士工業いわく、鏡面仕上げの精度はSiCより高く、摩擦抵抗は1/5ということなので、面が広くなったとしても大丈夫…という判断だったのでしょうか…?
↓確かにこの扁平さの差は、ラインテンションがかかった場合には糸鳴り音に影響がありそう
出典:富士工業
軽量化に寄与し、ラインに優しくするための扁平化が、思わぬデメリットを生み出してしまった可能性があるわけです。
特にラインテンションのかかるティップセクションがトルザイトリングの場合は、糸鳴り音が強くなる傾向があるようです。
…糸鳴り音なんてホントかよ〜?あの富士工業の最新ガイドなんだし…という方もいらっしゃるかもしれません。
が、実はここ最近のトルザイトリング採用ロッドは、ティップ部分だけSiCリング…みたいなロッドが結構多いことを知っていただければ、ロッドメーカーがこのデメリットを充分に分かっている可能性が高いと想像していただけると思います。
トルザイトが完璧なら、トップガイドもトルザイトでいいですもんね。
負荷のかかるトップガイドはSiCリングの方が良い、という判断をしているということです。
ワタシはオールトルザイトリングのロッドは持っていませんが、トルザイトリング+トップガイドだけSiCリングのシーバスロッドは持っています。
一定以上負荷のかかる巻きの釣りをすると、やはりSiCリングのみのロッドよりも確かなストレスを感じます。
個人的には決して致命的なレベルではありませんが、気になりだすと嫌なものです。
その他トルザイトリングについての考察
色々と気になることはたっくさんあるのですが、あまりに長くなってしまうので、1つだけ重要なところに触れておきます。
それは、軽さについて。
さーっと富士工業の説くメリットを読んでいくと、トルザイトは軽いんだ!という強い印象が残りますが、しっかり読み込むと少し印象は違ってきます。
トルザイトリングには現在タイプが2つあり(R型とF型)、富士工業によると、ガイド単体でR型はSiC-Jにくらべて約40%の軽量化、F型でも同等以下の自重を実現!ということだそうです。
出典:富士工業
これだけ聞くとすげーっ!となりますが、ロッド全体に与える影響のウェイトはどうなのか?という視点でみていくと、また違った印象になります。
現実感を得るために、リングサイズごとの表を再掲し、実際に重量を足し算してみます。実際にはロッドによってガイドの数やセッティングが異なるため、あくまでイメージを理解するためのご参考としてくださいね。このサイズのガイド10個ならシーバスロッドくらいかな?
出典:富士工業
SiC-J:3.675g
トルザイト-R:2.172g(SiC-Jとの差:▲1.503g/▲40.89%)
トルザイト-F:2.859g(SiC-Jとの差:▲0.816g/▲22.20%)
このような計算結果となりました。
さぁ、どう思いますか?
確かにR型はSiC-Jに対しておよそ40%軽量化されています。
ただし、元々が相当な軽さなので、実際に軽量化される重量は1.503g。
そして、ガイドと組み合わせると10%の軽量化に留まってしまうということです。
ガイドの方がリングよりもウェイトを占める割合が大きいということを表していますね。
この数字は上の表のガイドリング10個の計算結果ですので、例えばシーバスロッドで考えてみましょう。
ロッドの自重が150gだとすれば、ガイド単体の軽量化は1.52gですから、その恩恵は1%ほど…。
F型だとさらにその幅は小さくなってしまいます。
もちろんガイドサイズを小さくできる恩恵もあるので、もう少しばかり軽量化のメリットはあるでしょうが、40%!というような大きな数字が一人走りするとトルザイトを過大評価してしまう可能性があるので、要注意です。
いったいどれだけのアングラーが、SiC-Jとトルザイトのウェイトのわずかな差を明確に感じることができるでしょうか…?
(軽量化のメリットはない、と言っているわけではありません。実際軽くなっているのでメリットであることは間違いないです。ただ、その費用対効果をしっかり考えたい、ということです。トルザイト採用ロッドは得てして価格が跳ね上がります。)
今回のように、細かい数字の表を羅列されて、要は○○%メリットがあります!といった表現手法は世の中にあふれています。
もちろんこの手法は間違っていません。根拠も示していますし、言っていることも間違っていません。ユーザーに分かりやすくインパクトを与えるには有効だと思います。
ただし、逆に中身の本質をぼやけさせてしまうこともある、ということも言えます。
我々購買する側が正しく商品を理解し、選択すれば良いのですが、なかなか難しいですよね。
メーカーの宣伝を額面通りに受け取って短絡的に理解するのではなく、いつでも自分なりに本質を理解して、総合的に物事を判断できるようになりたいものです。
SiC-Sについてワタシが思うこと
さて、トルザイトについて長々と考察しましたが、ここで本題のSiC-Sに話を戻します。
これもあくまでワタシの推測であるという前置きのもとに読んでくださいね。
前項では、トルザイトにはメリットもデメリットもあるという話をしたつもりですが、ワタシはSiC-Sが新たに登場した背景にそれは無関係ではないと考えています。
トルザイトでつちかった技術(形状)は確実にメリットが多いが、致命的な使用感(糸鳴り音)の問題もある…これをなんとかしたい!という思いのもとに登場したのではないかと思うのです。
とは言え、SiC-Sもトルザイトのように薄型リングのようなので、糸鳴り音という問題に対しては同じ現象が起きるはず…なんですが、以下のルアーニュースさんの記事を読むと、糸鳴り音が少ない!とのこと。
って言うか、糸鳴り音少ないですよなんていう感想がでるあたりに、トルザイトリングの立ち位置が現れてますよね(笑)
ルアーニュースR記事【注目のSiC-Sガイド搭載アジングロッド7本をトミー敦が全解説】
糸鳴り音が少ない(かもしれない)のはなぜなのか?
あくまでトミー敦さんの感想であって本当にそうなのかは分からないし、アジングならラインテンションも強くはかからないので、問題の現象がでていないだけかもしれないですよね。
実際のギミックも富士工業さんから詳しい特徴の説明が出ていない(糸鳴り音について富士工業さん自らは触れづらいですよね)のでなんとも言えませんが、可能性として、トルザイトの課題であった糸鳴り音を克服、もしくは軽減させている可能性もある、ということです。
当然、富士工業さんとロッドメーカーとのしがらみもあるでしょうから、真相は分かりませんが…。
今後、さまざまな情報発信がなされ、その存在意義が認知されていくのでしょうが、現時点ではこのSiC-Sは非常に可能性を秘めたガイドリングである、と言えます。
トルザイトには若干劣るものの、軽さ、形状のメリットはほぼ同等で、もし糸鳴り音も抑えられているならば、SiC-Sこそ主流になっていくべきガイドリングと言えます。
今後、世の中からのさらなる情報発信を待ちましょう。
ただ、トルザイトのときみたいに革命的な新素材!みたいな感じじゃないので、みなさんまだあまり認識してないんじゃないかと思うんです…。
ワタシも今後SiC-Sリング採用のロッドを手に入れれば、インプレしてみようと思います。
さいごに
SiC-Sは地味にガイド市場を変えていっているはずです。
もうすぐ発表から2年が経ちますからね。
従来のSiC-J、トルザイトR、トルザイトF、そしてSiC-S。
どれが最強!というものではなくて、そのロッドに求められる特性によって、最適に組み合わせるのが今後の常識になっていくのかもしれません。
みなさんもSiC-Sのロッドを手に入れてその使用感を試してみてはいかがでしょう?
ワタシはその細かい違いまで分かるかどうかと言われると…自信がありません(笑)
が、分かりやすい糸鳴り音さえなければ、かなり優秀なガイドリングと言えそうです!