日本が世界に誇る大企業、東レ。
プラスチックなどの樹脂製品、ナイロン繊維、炭素繊維などを始めとした、日常生活に密接にかかわる製品を多数製造、加工、販売している会社です。
我々が釣りをする上でも数多くの製品に東レが関わっていますよね。
ワタシも当メディアを運営している関係上、釣り道具について毎日のように何か調べたりするわけですが、東レのナノアロイという技術名をよく目にする今日この頃…。
ハイエンドクラスのロッドでナノアロイ技術採用!というケースが多いのですが、出始めた当初はなんとなくすごいんだろうなぁ…くらいにしか考えていませんでした。
しかし、最近新登場するハイエンドクラスロッドにはナノアロイ技術採用が常識!くらいの雰囲気になっているので、これはどういう技術なんだろう…?なにがすごいのか…?と気になりだした次第です。
釣りメーカーさんは当たり前のようにナノアロイ技術という単語を使ってくるけど、あんまり詳しく教えてくれないもんね(笑)
で、ナノアロイ技術、個人的に調べれば調べるほどに
オイオイ…これは半端ねぇ技術じゃねぇか…
という気持ちがこみあげてくるものでした。
そんなナノアロイ技術がロッドにはどう活かされているのか?
今回はワタシなりにナノアロイ技術とロッドとの関係を分かりやすく、かみ砕いてご紹介できればと思います。
当記事では、以後ナノアロイ技術をナノアロイと表現しますね。
アイキャッチ画像出典:東レ
ナノアロイとは?
技術概要と定義から読んでみましたが、
やべぇ…さっそく意味不明だな…これだから化学の世界は嫌なんだよな…そういえば高校でも化学苦手だったんだよな…orz
と、苦い記憶もよみがえってきたりして、これ以上深入りするのをやめたくなる気持ちになりました。
でも、もういい歳した大人なんだから、目的のためにはグッとこらえて頑張ってみろ!となんとか踏みとどまることに成功しました(笑)
大事なところだと思うのでご紹介します。
しょっぱなから小難しい文章を読むのがツラい人はスルーしてくれても大丈夫です。
技術概要
『NANOALLOY®(ナノアロイ®)』技術とは、複数のポリマーをナノメートルオーダーで微分散させることで、従来材料と比較して飛躍的な特性向上を発現させることができる当社独自の革新的微細構造制御技術です。
一般的な「ミクロンオーダー(1mの100万分の1に相当する大きさ)」のアロイでは実現できなかった高分子材料の高性能化・高機能化を可能にする技術であり、当社のみが基本特許ならびに主要な製造特許、用途特許を保有しています。※ ナノアロイ®は東レの高い技術力を代表するテクノロジー・ブランドです。 (テクノロジー・ブランドとは、特許などで守られた独自技術をブランドで「見える化」し、技術力の高い企業イメージの向上や、技術を適用した商品の差別化を図り、間接的に事業収益に貢献させる事業ソースとして活用するブランドを指します)
出典:東レ
定義
複数のポリマーをナノメートルオーダーで混合したポリマーアロイ構造を形成させる技術。
ポリマーアロイ構造としては…
- ナノメートルオーダーで微分散させる構造
- ポリマーを混合する際に、自発的に集合していく「自己組織化」作用を制御することでポリマーをナノメートルオーダーで精密に整列させ3次元的な連続構造を形成させた構造
- それぞれの材料特性を併せ持った数十ナノメートル単位の粒子「ナノミセル」を多数含む構造等
出典:東レ
技術概要と定義のかみ砕いた解説
どうですか?スルーしました?(笑)
意味が理解できない人がほとんどですよね?(え?ワタシだけってことはないですよね?)
ワタシなりに時間をかけて勉強、理解したので、これからかみ砕いて説明していきます。
始めにポリマーとアロイという用語について簡単に話をします。
ナノアロイを理解するためには、この2つはそれなりに理解しないといけないのかなと思います。
極力分かりやすく書いたつもりですが少し難しいかもしれません…。
そこはワタシの文章力の足りなさなのでご容赦ください。
読んでるうちになんとなく全体像はつかめてくると思います。
ポリマーって?
まずはポリマーから。
モノマーと呼ばれる単量体が複数結合して鎖状や網状になることによってできた化合物のことをポリマー(重合体)と呼びます。
素人的にイメージを分かりやすく解釈するなら、ハチの巣かな!?と思いました。
1つ1つの部屋がモノマーで、それがたくさん連なって1つの巨大な巣(ポリマー)になってるような感じ!?
現実によく聞く材料の例として挙げられるのは、以下の関係です。
ポリエチレン(ポリマー)に対するエチレン(モノマー)
ポリスチレン(ポリマー)に対するスチレン(モノマー)
ポリエチレンってのは略していわゆるPEですね!
PEライン、使ってる人多いでしょ?あれもポリマーなんですね。
エチレンがたくさん集まって結合した結果、ポリエチレンになってるんですね。
実は最も単純な構造をもつ高分子なんですって!
ちなみに高分子というのはかみ砕いて言うとプラスチックとかゴムに代表されるもののことです。
「ポリ」っていうのが、「たくさん」とか「複数」という意味がある接頭語だそうです。
例えば、知らない人はごめんなさいですが、パフュームの楽曲であるポリリズムは「複数のリズム」を意味しています。
楽曲中に、複数の異なる拍子が同時進行で用いられている事ですね。
そういう理解で聞くと、パフュームのポリリズムもなるほどなぁ~となりますよね。
他にも身近な言葉として、ポリフェノールの「ポリ」も複数という意味なんですよ。
分子の中にフェノール性水酸基という物質を複数もつ植物成分の総称をポリフェノールと呼ぶんです。
対して「モノ」っていうのはギリシャ語で「1」を表す接頭語だそうです。
これも、あ、モノレールってレールが1つだからモノレールなのか!と気づきました。
他にも、モノクローム(モノクロ)も単色で表現するからモノクロと呼ぶんです。
アロイって?
続いてアロイについて。
アロイというのは、元々は金属の合金という意味だそうです。
合金ってのは複数金属を組み合わせた金属のことですね。
これになぞらえて2種類以上の高分子を含んだ多成分系高分子を意味しているんだとか。
改めて書きますが、ここでの高分子というのはかみ砕いて言うとプラスチックとかゴムのことです。
これも素人的に解釈すると、上の項で説明したポリマーが高分子だから、2種類以上のポリマーを組み合わせて(多成分)できた高分子(プラスチックとかゴム)という感じかな!?
なんでアロイが必要なのかというと、高分子は用途がどんどん広がっていってるんですけど、その要求性能が高度化、多様化するにつれて、単一のポリマーではその要求を満たせなくなるんですね。
例えば、耐衝撃性と剛性といったような、相反する特性を秘めたポリマーが求められてるんです。
耐衝撃性と剛性の相反する関係を分かりやすく書くと…、例えば車の外装に求められる特性が挙げられますね。
剛性を高めるなら単純に硬くすればいいのですが、そうすると少しの衝撃で割れてしまいますし、衝撃を吸収してくれません。
例えば車が物や人にぶつかってしまったケースを考えると、衝撃を吸収する素材であってほしい訳ですが、極端な話、柔らかいゴムでは剛性が足りず、車の外装に採用なんてできませんよね。
ちなみに車のボディには、現在はハイテンと呼ばれる鉄の一種や、アルミが用いられるのが主流です。
車の構造などを工夫しながら上手く衝撃を吸収するように造られていますが、炭素繊維強化プラスチックという素材を採用するメーカーも出てきています。
まさに東レの得意分野ですね。
今後どのように進化していくか要注目ですね。
車の話はあくまで一例にすぎず、要はこういったニーズが世の中にたくさんあるので、その解決手段として、特徴が異なる複数のポリマーを組み合わせて、それぞれの長所を活かしながら短所をカバーするようなポリマーアロイが注目されているんです。
ただし、どんなポリマーでも簡単に混合できるわけではなく、本来は混ざり合わないポリマーの組み合わせをいかにして上手く混合するか(相溶性と言うようです)がアロイ化のキーポイントで、分散粒子径を高度に制御する(極力小さくする)ことが必要になるようです。
やっとナノアロイの説明ができる…
ハァハァ…長かったですね。
ここまで読んでくれた方はお付き合いいただきありがとうございます。
ポリマーとアロイについて、なんとなーくイメージできましたでしょうか?
イメージできている前提で話をすすめますね(笑)
もう一度、東レの技術概要の一部を抜粋します。
『NANOALLOY®(ナノアロイ®)』技術とは、複数のポリマーをナノメートルオーダーで微分散させることで、従来材料と比較して飛躍的な特性向上を発現させることができる当社独自の革新的微細構造制御技術です。
一般的な「ミクロンオーダー(1mの100万分の1に相当する大きさ)」のアロイでは実現できなかった高分子材料の高性能化・高機能化を可能にする技術であり、当社のみが基本特許ならびに主要な製造特許、用途特許を保有しています。出典:東レ
ふむふむ、ナノアロイというのは、複数のポリマーをナノメートルオーダーという、めーーーーーーっちゃくちゃ細かな単位で分散させることができるようになったことで、従来の材料の持っている特性よりもはるかに高い特性を発現させることに成功したってことですね。
おぉ、これはたぶんアロイの項で勉強した
分散粒子径を高度に制御する(極力小さくする)
ってところがキモっぽいですね!
一般的なアロイは「ミクロンオーダー(1mの100万分の1に相当する大きさ)」と書いてますね。
いや、まぁ…イメージはできないけど、すごい小さいことは伝わってきます。
んじゃ、ナノメートルオーダーってどんだけ小さいんだ?と調べてびっくり!
1mの10億分の1
だそうです。
むしろこれもまったくイメージできない世界ですけど、ミクロンオーダーとの対比ではすさまじいことが分かりますね。
1,000,000
1,000,000,000
3桁も桁がちゃいまっせ…。
1mを100万に分けた中の1つと10億に分けた中の1つでは、大きさのレベルが違いすぎます。
まさに桁が違うというより桁が違いすぎるということですね。
ナノアロイとは、複数のポリマーを従来のアロイのレベルをはるかに超える小ささで微分散させて、高分子材料の高性能化・高機能化を可能にする技術ということです!
分かりやすく言うと、今までは混合できなかった、複数の異なる特性を持ったプラスチックなどの高分子材料を組み合わせれるようになったことで、それぞれのいい特性(本来は相反するものであったとしても)を合わせ持った新たなものを作り出すことに成功した!といった感じですね。
ほんとに夢のある技術です!
では、このナノアロイは具体的にどんな特性を生み出せるのか?これを見ていきましょう。
ナノアロイが生み出す特性の例
ナノアロイの可能性はまさに無限大と言えますが、現時点で、新たにどんな価値を生み出しているのか気になりますね。
あくまで一例のようですが、東レホームページでは以下のような特性が挙げられています。
たくさんあるので、ほぉーお…って感じでサッと読んでもらったらいいです。
耐衝撃性
高速衝撃に対する柔軟性や、衝撃吸収性、復元性を向上させることで、これまで使い捨てにされていたプラスチックの長期使用が可能になったり、プロテクター用途などでは人の安全性の向上が期待されます。適用用途例
ゴルフクラブ(シャフト)、テニス・バドミントンラケット(フレーム)、ラケット用ストリング、自転車、釣竿、バット、スポーツ用プロテクター、自動車外装(衝撃吸収材料)、安全ヘルメット、マットレス、床材 など高流動性
溶融状態のポリマーの流動性を向上させ、部品の薄肉化や、より複雑形状の製品設計が可能になる他、成形サイクルの短縮や成形加工温度の低減による省エネルギー化、および温室効果ガス(GHG)の削減が見込まれます。適用用途例
通信機器コネクタなどの小型精密部品 など成形性
フィルムにおいては、低い成形温度でも加工し易く複雑な形状に追従、対応できる素材を開発。従来の塗装やメッキなどの技術に代わって、環境負荷の低いフィルムを用いた立体的(3D)デザインへの加飾を実現します。適用用途例
スマートデバイス・家電製品・自動車内外装などの加飾用フィルム など振動吸収性
振動・騒音を軽減させるようなプラスチック素材の創出が可能となります。適用用途例
輸送機器、住宅、工場機械、工作機械 など耐熱性
耐熱温度や耐熱寿命の大幅向上により、電機・電子部品や自動車部品等、高性能プラスチックが要求される用途での使用が可能になります。適用用途例
データバックアップテープ用ベースフィルム、電気絶縁材料 など出典:東レ
なんだかたくさんありますが、パッと見だけで我々の生活に密接に結び付きそうなものが多数ありますね!
中でも、やはり釣竿=ロッドに関する特性である耐衝撃性に目が行きます(笑)
高速衝撃に対する柔軟性や、衝撃吸収性、復元性を向上させるということですが、文章だけでは意味は理解できても、具体的なイメージは難しいですよね。
そこで、ナノアロイの耐衝撃性を実験した動画が、東レホームページにアップされてますので、リンクを貼っておきます。
ナノアロイが生み出すありえない特性をその目で見てください。
パソコンだと問題ないのですが、スマホで見られる方は、スペース的に横画面にしたほうが見やすいかもしれません。
■東レホームページ対象ページへのリンク
→【ナノアロイとは ナノアロイ適用効果 耐衝撃性】
この動画を始めて見たときに、ワタシは思わず「おいおいマジかよ…」と笑ってしまいました(笑)
だって、普段は硬質な物質(要はプラスチック的なもの)が、強い力で押しつぶされた瞬間にグニャンって…まったく破損しないんです!
ちなみに、耐衝撃性の適用用途例には、自動車外装という例もあげられてますね。
さきほど、車のボディにCFRPと呼ばれる炭素繊維強化プラスチックを採用するメーカーも出てきてますという話をしましたが、これとナノアロイは関係ないのかな?とGoogle先生に聞いてみたら、ありましたありました!しかもけっこう最近のプレスリリースという(笑)
出典:東レ
で、このプレスリリースの中にポイントが3点挙げられていて、その中にありましたよ、ナノアロイが!
・ 大学などによる分子設計技術や構造解析技術と、東レが保有する独自のナノアロイ®(注1)技術を融合することによって、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のポリマー(注2)材料へ環動ポリマー構造(注3)を導入する「しなやかなタフポリマー」作製技術を、確立した。
・ 具体的には、CFRPのマトリックス樹脂中に環動ポリマーをナノスケールで均一に分散することに成功し、本来CFRPが持つ高い強度と剛性を維持しながら、従来に比べて約3倍の耐疲労特性(注4)を実現した。
・ この技術により炭素繊維強化プラスチックは、今後10年間で、航空機、自動車、スポーツ用品、医療ほか幅広い分野への応用展開と市場拡大が期待される。
現在進行形で、ナノアロイは我々の生活を豊かにするためにどんどん活用されてるんだなと実感させられます。
さて、次項からはロッドとナノアロイの関係について見ていこうと思います。
ナノアロイはロッドにどう活かされている?
さぁ、ここまでかみ砕いてなんとか理解してきた(はず)のナノアロイが、ロッドにどのように生かされているのか?について考えていきましょう。
すでにお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、ナノアロイは現在、カーボンロッドのブランクスに採用されています。
でも、ナノアロイはざっくり言うと
2種類以上のポリマーを超小さなレベルで組み合わせて(多成分)できた高分子(プラスチックとかゴム)を作りだす技術
っていう話でしたよね。
さて、ここからは高分子をより釣り(ロッド)業界で使われる言葉に変えていきますね。
ロッド造りの世界では、こういった高分子を樹脂(レジン)と呼びます。
カーボンと樹脂は全く異なるもの
カーボンと樹脂は違うものです。
ここでかみ砕いて分かりやすく言うならば、カーボンは炭素、樹脂はプラスチックです。
では、ナノアロイ採用ロッドって何?どゆこと?
ナノアロイっていう樹脂だけでロッドを作ってるってこと…?
いやいや、そんなことはありません。
あくまでカーボンロッドにナノアロイを活用しているんです。
じゃ、カーボンと樹脂(ナノアロイ)を混ぜてるとか?なんていう安直な疑問が湧いてきますね。
そこで、一例としてシマノのナノアロイ採用ロッドであるエクスセンスジェノスのスペックを見てみると
出典:シマノ
そう、99パーセント以上がカーボンです。
むしろほぼカーボンと言っていいでしょう。
ということは………?
そう、この残り0.~%とかいうレベルの量だけしか樹脂は含まれていません!
ここで、カーボンロッドってどうやって作られてるの?という観点からご説明します。
カーボンロッドの作られ方
カーボンロッドは、炭素糸を加工して繊維状(要はシート状)にした炭素繊維をもとに作られます。
東レでは、炭素繊維については商標登録されたトレカという名前を用いますので、以後、トレカという呼び方をします。
トレカ糸をシート状にして加工したものをトレカプリプレグと呼びます。
■トレカ糸
出典:東レ
■トレカプリプレグ
出典:東レ
トレカプリプレグは、炭素繊維トレカに樹脂を含浸させたシートです。
簡単に言うと、このトレカプリプレグというシートを何層にも巻いていった中空状の棒が、カーボンロッドという訳です。
ナノアロイ採用カーボンロッドとは?
カーボンロッドの作られ方の項で、トレカプリプレグは、炭素繊維トレカに樹脂を含浸させたシートと書きましたが、要はこの含浸させる樹脂のところに、ナノアロイ技術を適用した新規マトリックス樹脂を採用させたものが、ナノアロイ採用ロッド!と名乗ることを許されます。
この新規マトリックス樹脂と組み合わせるトレカには、トレカ®「T1100G」を採用することで高強度と高弾性率の両立を実現させています。
トレカ®「T1100G」とは、これまた高強度と高弾性率化の両立を実現した、東レの高強度・高弾性率炭素繊維トレカの商品名です。
2014年にプレスリリースされたトレカなんですが、すでに航空・宇宙分野をはじめとするハイエンド用途で広く採用されていたトレカ®「T1000G」「T800S」などの従来の東レ製炭素繊維に比べて大幅に性能を高めています。
表 「T1100G」の引張強度・弾性率特性
項目 | T1100G | T1000G | T800S |
引張強度[GPa] | 6.6 | 6.4 | 5.9 |
引張弾性率[GPa] | 324 | 294 | 294 |
出典:東レ
航空機やロケットに採用されるほどのトレカ。その中でも最先端のトレカですから、要は非常に強く、それでいてしなる炭素繊維ということですね。
で、このトレカ®「T1100G」に組みあわせる新規マトリックス樹脂って?となる訳ですが、どうやら2種類開発したようです。
「#2573」と「#2574」
だそうです。なんだかコードネームみたいですね。
おそらくですけど、樹脂にはびっくりするくらいの種類があると思うので、数字でのナンバー管理じゃないと訳わかんなくなるんじゃないでしょうか?
で、それぞれの樹脂はどんな特徴をもってるの?ということですが、
「#2573」樹脂:耐衝撃性タイプ
現行の耐熱タフ #2592 対比樹脂の弾性率を維持しつつ靭性を大幅に向上させることで、コンポジットのシャルピー衝撃強度が 14%向上しました。荷重―ひずみ曲線を比較すると、最大荷重に達するまでは同じ挙動を示しつつ、「#2573」樹脂使いコンポジットは最大荷重後の吸収エネルギーが大幅に増加しています「#2574」樹脂:高曲げ強度タイプ
現行の耐熱タフ #2592 樹脂対比靭性を維持しつつ曲げ弾性率を大幅に向上させることで、例えばゴルフシャフト用途で重要視される円筒成形コンポジットのねじり強さを維持したまま、曲げ強度の大幅な向上が期待できます。
さらに、「#2574」樹脂を高強度・高弾性率炭素繊維トレカ ®「T1100G」と組み合わせることで、従来材対比コンポジットの強度が 13%向上、弾性率が 10%向上し、コンポジットにおいて高強度と高弾性率の両立を実現できました出典:東レ
おぉ、なるほど、耐衝撃性に特化させた樹脂と、高強度・高弾性率に特化させた樹脂なんですね。
従来、樹脂の弾性率と破壊靭性はトレードオフであり、靭性を維持しながら弾性率を向上させることは困難でしたが、ナノアロイ技術を適用することで相反する特性をより高いレベルで両立させることに成功した訳です。
カーボンロッドに採用されている樹脂はおそらく「#2574」ですね!
ナノアロイ技術を採用しただけで、一見同じように見えるトレカプリプレグの強度が13%、弾性率が10%も向上した訳です!
ナノアロイ採用カーボンロッドについて掘り下げてみる
思い出してください。
シマノのエクスセンスジェノスのスペックで見ましたが、ナノアロイ技術を採用しているとは言うものの、99パーセント以上がカーボンでしたよね。
0.~%の樹脂がロッドを構成する上で、どのようにカーボン(炭素繊維)と結びついているのか…そのイメージが気になりません?
調べてたら、アピアのホームページで、非常に分かりやすい図解をしてくれていました。
こういった詳しい解説・情報開示をしてくれているメーカーさんは良心的ですね。
出典:アピア
ナノアロイが該当のカーボンロッドにどのように巻かれているか分かりやすい動画もアップされていますので、ぜひご覧ください。
炭素繊維と炭素繊維の間にわずかな樹脂が接着剤的に結びついているわけですが、この密度が圧倒的に濃いんですね。
炭素繊維の密度が濃くなれば、おそらくですが、その分薄く巻けるのではないかと想像します。
ちなみに、ナノアロイ技術を採用しているからと言って必ずしもカーボンの含有率が高いということにはなりません。
もちろん、採用していれば含有率を押し上げる要因にはなりますよ?
ですが、ナノアロイを採用したトレカプリプレグをどの層に採用しているかにもよりますし、そもそも、ナノアロイ不採用カーボンロッドでも、ナノアロイ採用ロッドよりもカーボン含有率が高いロッドは存在します。カーボンの巻き方によっては、ナノアロイを採用していなくともカーボン密度を高めることは可能という事です。
例えば、これまた例としてシマノのシーバスロッド、ディアルーナのスペックをご覧ください。
出典:シマノ
ね?
エクスセンスジェノスよりも含有率は高いでしょ?
ちなみに、なんでこんなにディアルーナは含有率高いの?というと、マッスルカーボンという技術が採用されているからです。
マッスルカーボンは通常のカーボン素材よりもカーボン繊維を高密度に束ねることにより繊維間の隙間を大幅に減らし、その隙間を埋める樹脂を削減した高性能素材。それ以上にカーボン繊維を高密度に束ね、高度な成形技術によってのみ生み出されたのがウルトラマッスルカーボンです。
出典:シマノ
マッスルカーボンと、さらに上のレベルのウルトラマッスルカーボンなんていう、別の視点の技術もある訳です。
ちなみに、ウルトラマッスルカーボンは、シマノの鮎竿・ヤマメ竿、小継渓流竿などの高級モデル(定価ベースで20万円以上するものが多数)にしか搭載されていません。
例えばウルトラマッスルカーボン採用ロッドと、ナノアロイ採用ロッドでは、具体的にどういった違いが出てくるのか気になりますね(笑)
現段階では想像しかできませんが、マッスルカーボン系はあくまで通常のトレカプリプレグを使いながら、巻いていく過程で樹脂を減らせるように密度を高める(圧着させる?)ということなのでしょうか…?
要は、カーボンを巻く工程における努力・技術…というイメージ。
2018年12月26日追記
個人的にも興味があったので、シマノに問い合わせてみました。
マッスルカーボンに採用されている詳しい樹脂名は教えてもらえませんでしたが、やはり物理的にカーボン繊維を高密度に束ねることで、樹脂を減らしているようです。
使用している樹脂の特性にもよりますが、カーボン間の隙間をなにかしろの技術で減らすことでカーボン含有率が高くなっていることに間違いはなさそうです。
ただし、ナノアロイ採用ロッドの場合は、樹脂が減らせるうえに、ナノアロイの特性(おそらく#2574採用による)も発揮されるので、同じようにカーボン含有率は高い訳ですが、その中身のクオリティには差があるはずです。
シマノのナノアロイ採用技術である、スパイラルXコアの説明にはこうあります。
シマノ独自の設計・製造方法により、曲げ、ネジレ、つぶれなど、あらゆる方向に対して、さらなる高強度化を徹底追求。ロッド性能を根幹から高めるシマノ独自の基本構造スパイラルXに、ナノアロイ®テクノロジーにより実現した高強度樹脂を用いたカーボンテープを使用。選りすぐりの素材でさらなる高強度化を実現しました。一般的な構造との比較で、ネジリ強度1.4倍、つぶれ強度2.5倍を達成(当社比)。さらにスパイラルXとの比較でも、ネジリ強度10%アップ、つぶれ強度15%アップを達成(当社比)しました。
出典:シマノ
基本構造のスパイラルXに使うトレカプリプレグにナノアロイを採用しているのがスパイラルXコアという訳ですね。
そもそもは、樹脂に「#2574」を採用している(おそらくですが)時点で、ベースとして強度が13%、弾性率が10%アップする訳ですから、スパイラルXなどに代表される、その巻き方次第でさらにパフォーマンスは上がるであろう…ということです。
以下はスパイラルX コアを搭載している エクスセンス ∞ の強度テスト映像です。ご参考にどうぞ。
すんごい粘り強くしなってますね!
ナノアロイを採用しているトレカプリプレグ自体のベーススペックが上がっているだけですから、それこそ単純にマッスルカーボン系の技術と組みあわせることも可能なのか?もし可能であればどうなるのか?
それこそシマノで言うと、マッスルカーボンコア…とか、ハイパワーエックスなんちゃら…みたいなナノアロイ系技術が登場しそうな気がしませんか?(笑)
想像は膨らむばかりですが、今後新たにナノアロイの活用の場はどんどん増えていって、もはやスタンダードなトレカプリプレグになると予想するのが妥当なのでしょうね。
さいごに
ここまで長文におつきあい頂いた方はありがとうございます。
ど素人のワタシが自分なりに情報を集めて調べた結果なので、認識の誤りなどあるかもしれませんが、ナノアロイについて現時点では今回書いた理解でいます。
ロッド以外のさまざまな分野で活躍している技術なんだ!ということも学びになりました。
現段階で、ナノアロイ採用ロッドは高価です。
ただ単純に、ナノアロイ採用…よく分からんけどいいロッドなんだ…。と、ナノアロイを理解せずにロッドを使っているよりも、ナノアロイを理解して使う方が、ちょっぴり嬉しくなりませんか?
ワタシは今回自分なりに勉強してそう思います。
まぁ、ナノアロイが採用されるロッドということは、かなりハイスペックな世界の話なので、ハッキリ言ってニッチな…自己満足の世界にもなってきます。
既存のハイエンドクラスのロッドと、ナノアロイ採用のロッドの使用感の違いを明確に感じられるアングラーは少ないでしょう(笑)
ですが、きっと…魚とのファイト中、ギリギリのところでロッドの性能のおかげで獲れる魚がいたり…キャストの精度があがったり飛距離が数メートル伸びたことで獲れる魚がいたり…そんなこともあるはずです。
ナノアロイは地味に見えないところで、我々を豊かにしてくれるすごい存在…そんな風に思います。